禅フロンティア

人間禅『立教の主旨』にご賛同いただき、会員と共に把手共行していただける名誉会員をはじめ、禅の自由でダイナミックな発想を生かすフロンティアの旗手たちの論説を掲載します。
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2020.09.18 Friday

茶と禅(その一)|国宝 大井戸茶碗『喜左衛門』

茶と禅(その一)

本庄 巌 

 

 茶道は“ティー・セレモニー”と呼ばれるように、宗教的なパフォーマンスといえ、その背後には禅の思想があります。珠光、紹鴎に始まる侘茶を大成した千利休も大徳寺で参禅しており、今も千家の家元は大徳寺で得度されると聞きます。
 私の茶と禅とのかかわりは、学生時代に知った国宝の喜左衛門井戸という茶碗に始まります。中国渡来の完璧な耀変天目茶碗にくらべ、韓国で庶民の飯茶碗として大量生産されたこの茶碗が、どうして国宝なのかという素朴な疑問でした。

 


 

 茶碗を所持した竹田喜左衛門は、京都島原で客引きをするほどに落ちぶれても茶碗を手放さず、のちに腫物で亡くなります。その後この茶碗の所持者は腫物で亡くなることが続き、松平不昧公が大徳寺孤蓬庵に寄進して今日に至っています。

 もし禅の思想がなければ、決して茶室の王者として迎えられなかった茶碗であり、ここに茶禅一味の姿を見ることができます。

(つづく)

 

 

2020.09.16 Wednesday

人間禅道場における茶碗作り(2)

JUGEMテーマ:陶芸

人間禅道場における茶碗作り

丸川春潭・佐瀬霞山 

 

2.耕雲庵英山老師の茶碗作り

(1)本部道場の初期の窯

 本部道場に作られた窯(下の写真の窯)は両忘塔東下の広場に作られたもので、これが作られた時期は定かではありません。昭和30年代はじめ頃と思われます。この窯を焚いておられるのが耕雲庵英山老師です。

 

 

(2)老師還暦茶碗

 昭和27年(1952年)が耕雲庵英山老師の還暦の年であります。老師は還暦を記念して抹茶茶碗を作り、人間禅の幹部の方々数名に贈与されたものと思われます。茶碗は重く素朴かつ無骨なものです。

 

 

 これ以前の茶碗は見たことがないので、還暦茶碗から作陶を始められたものと考えられます。この写真は、老大師の作品集からのコピーであり四国支部所蔵ですが、本部道場にもあります。

 

(3)老師古希茶碗

 老師69才(昭和37年、1962年)すなわち古希の記念品として心経茶碗を製作されました。般若心経を茶碗の側面に書いたものです。そしてその記念品の配布の仕方がユニークであり耕雲庵流なのです。一生お茶を嗜むことを前提に心経茶碗を所望する者は、昭和36年9月1日付けの葉書で申し込むようにと通達があり、先着順でいただけると云うことでした。

 作陶した茶碗の粘土が未だ乾かない間に、先の尖った筆具で般若心経を最初から最後まで書かれている茶碗です。想像しただけでも大変なことです。この作陶をされ出すと奥様の珠月様以下ご家族は邪魔をしないように大変気を遣われたと云うことを伝え聞いています。しかもその作製された数は100個を優に超えるとのことで、耕雲庵老師の大慈大悲には頭が下がるのみであります。

 

 

 

(4)老師喜寿茶碗

 耕雲庵英山老師が喜寿(数え年77才、昭和44年)になられた記念品として茶碗か書(掛け軸用)を所望の会員はどちらかを頂きました。

 この茶碗は吉田実応大先輩と金峰庵光常老師(当時大学生)の二人が登り窯をこれ用に作り、一度に50個ほど燓かれたそうであります。

 

 

 

 写真は、千獃庵凉𨼲老師から10年ほど前に譲り受けさせて頂いたものです。茶碗の側面に七を三つ書いた㐂の字を揮毫されています。昭和44年5月5日と書かれていますが、5月5日は人間禅創立記念日でありこの日に第二世総裁妙峰庵老師が誕生し、耕雲庵英山老師は名誉総裁に就任された記念すべき日であります。

2020.09.15 Tuesday

脳の不思議・・お釈迦様の脳まで(その六)

脳の不思議・・お釈迦様の脳まで(その六)

本庄 巌 

 

 最後に心のありかについて考えてみます。雪舟の慧可断臂図にも描かれている慧可が、ある時、達磨に心の不安を訴えます。しかし達磨に治してやるから心を持って来いと言われ、はたと困ったという話があります。慧可はそのようにつかまえにくい心に捕らわれる愚かさを悟ったとされます。

 生理学の教科書に心の場所についての記載は見当たりません。心は脳だけにあるのではなく、心臓や腸などの内臓を含め体全体に張り巡らされた神経のネットワークが働いた時、心というものが生まれるのでしょう。

 瞑想で心の平安や安らぎをもたらすのは、脳内神経物質であるセロトニンの分泌が増加するためということが証明されています。瞑想は副交感神経を高め、心拍数を減らし血圧を下げるなどの効果も見られます。

 キリスト教やユダヤ教あるいはイスラム教では、信仰の対象は神であり、これに対して祈りをささげ救いを求めます。しかし釈迦の教えを受け継ぐ禅では、信仰の対象は自身の内部、すなわち脳に向けられているように思われます。

「衆生本来仏なり」という白隠禅師の言葉のように、お釈迦様はご自分が到達された悟りの境地に、我々を導こうとするはからいがあるようで、その方法として坐禅、瞑想によって自己の脳をコントロールする禅があるといえるでしょう。

2020.09.10 Thursday

脳の不思議・・お釈迦様の脳まで(その五)

脳の不思議・・お釈迦様の脳まで(その五)

本庄 巌 

 

 菩提樹の下で悟りを得られたお釈迦様は、「太陽が虚空を照らすがごとく」とご自身の爆発的な悟りの境地を述べられています。脳の深部の旧脳と呼ばれる部分には、海馬や扁桃体などがあります。扁桃体は自己の生命維持に必要な摂食、摂水や子孫維持の為の本能的な行動の中枢で、ヒトでは喜びや恐怖や悲嘆などの感情を生む場所でもあります。

 お釈迦様の劇的な悟りの境涯では、この扁桃体で感情の爆発が起きた可能性があります。いま一つはドーパミンなどの神経伝達物質が放出され、法悦をもたらした可能性もあります。瞑想が深まり第九あまら識に至る状態は、この旧脳の活動にかかわる状態ではないかと思われます。

 スポーツなどでも、初期段階では運動のプランニングは大脳で行われますが、練習を積むと小脳にそのネットワークが移され、無意識に円滑な運動ができるようになります。バッターボックスで球が止まって見える、球の縫い目まで見えるという境地はその一例でしょう。坐禅で修練によって短時間で深い瞑想の境地に入る事実は、小脳の働きが関与していると思われます。

 お釈迦様は菩提樹の下で悟りを得られた時の脳の状態を、生涯持ち続けられました。天才的な前頭葉の活動で、相手に合わせた臨機応変の説法で布教活動を続けられました。同時に禅語の「自他の畔を切る」状態、すなわち他人を自分と同じと見なす博愛の精神を持ち続けられたのです。

 

2020.09.08 Tuesday

人間禅道場における茶碗作り(1)

JUGEMテーマ:陶芸

 

人間禅道場における茶碗作り

丸川春潭・佐瀬霞山 

 

1.緒言〜〜茶禅一味と日常における禅者の喫茶〜〜

「茶禅一味」は日本に禅が到来した13世紀以来の禅と茶道との関係を示す言葉であり、その深い意味については人間禅の先輩師家である如々庵芳賀洞然老師著『わび茶の研究』に語り尽くされていますのでご興味の方は参照されたら良いと思います。

 この「喫茶去」の写真は、人間禅のルーツである楞伽窟釈宗演揮毫(人間禅所蔵)であり、本部道場北寮の茶室に掲げられています。これは唐代8世紀〜9世紀の中国の有名な禅僧趙州和尚の因縁になる言葉であり、その当時から禅と茶は結びついていたようです。

 

宗演老師の「喫茶去」の額

 

 耕雲庵英山老師は、摂心会において毎朝ご自分でお手前をしてお相伴二名と共に喫茶されるのを習慣にされていました。それが人間禅の慣習となって、本部摂心会においては摂心会の日程に組み込まれた一つの行事になっています。因みに、第一世総裁(耕雲庵英山老師)と第四世青嶂庵荒木古幹老師はご自分で点茶され、それ以外の老師は主客になってお茶係が点てるやり方で今日まで継続されています。

 また耕雲庵英山老師は摂心会のみならず日常においても毎朝点茶をされてお茶を嗜まれ、それを真似て青嶂庵老師をはじめ小生もそうですが、日常において喫茶をする会員は数多くいると思います。

 この扇面の写真は、耕雲庵英山老師奥様の珠月様との合作で「茶は知己に逢ふて飲む」であり、日常の生活の中でお茶を楽しまれたのが伺われます。

 

 

  耕雲庵英山老師の扇面揮毫「茶は知己に逢ふて飲む」

 

 この耕雲庵英山老師の野点は本部道場の洗心庵茶室の外側で行われている年末恒例の茶筅供養の様子です。

 

 

 茶道は禅をバックボーンに持ち日本文化の全ての要素を包含した総合文化と云われていますが、以下はその中でも茶碗を中心とした陶芸作品が人間禅道場を中心にどのように作られてきたかをブログとしてまとめ、皆さんに紹介したいと思います。

 

#陶芸 #茶道

2020.09.05 Saturday

脳の不思議・・お釈迦様の脳まで(その四)

脳の不思議・・お釈迦様の脳まで(その四)

本庄 巌 

 

 これまでにも高僧が深い瞑想に入った時の脳波で、睡眠状態の時のシーター波が出ていることは分かっていました。しかし脳のどの部分がどう働いているかを知るには脳機能画像が不可欠で、もし深い瞑想状態にある時の脳を脳機能画像で調べれば、お釈迦様が菩提樹の下で禅定に入られた時の脳も推定できると思っていました。

 幸いアメリカの研究で、チベットの修業僧が深い瞑想状態に入った時の脳機能を調べ、前頭葉の活動と、頭頂野の沈黙が見られたという報告がありました。  

 前頭葉は脳の中の脳といわれるように意志や行動決定の中心であり、いわば大会社の社長室あるいは内閣総理府といった中枢です。瞑想に意志を集中することが強力な前頭葉の活性化を来し、いっぽうそれに反比例するように頭頂葉の沈黙が起こっていたのです。頭頂葉は五感の情報を解釈する場所で、これが働かないと物は見え音は聞こえても、その情報が解釈されないままに通り過ぎることになります。さらには空間内での位置感覚がなくなり、自己と外界との境界が消失し宇宙との一体化がもたらされます。これによって大日如来との一体化や、キリストとの合体感を生む場合があります。

 仏像の額の白毫からは世界を照らす光が出るとされています。また額に第三の眼を持つ仏像もみられます。これらの仏像は瞑想によって額の後ろの前頭葉が輝くことを示しているのかもしれません。

2020.08.31 Monday

脳の不思議・・お釈迦様の脳まで(その三)

脳の不思議・・お釈迦様の脳まで(その三)

本庄 巌 

 

 脳機能画像を使って言葉に関わる脳の働きを調べていくと、私たちの脳がいかに目的に応じて巧妙に対応しているかが分かってきました。

 文章を朗読している時の脳画像では、聴覚野は沈黙して自分の言葉はいちいちチェックしていないことが分かりました。逆に自分がしゃべっている内容をチェックしているとうまくしゃべれなくなるのです。

 しゃべっている言葉を少し遅らせて聞かせると、聴覚野が活動して言葉はうまくしゃべれなくなります。聞こえているのに聞こえないふりをするいわゆる詐聴という行為がありますが、もし本当は聞こえているのであれば、言葉が乱れるので容易に発見されます。自分のしゃべる言葉の内容をいちいちチェックすると、吃音の状態になるようです。

 指先で点字を読んでいる時の脳機能画像では、指の触覚を司る脳が働く筈ですが、その部分ではなく視覚野が働いているのです。脳は指で知覚した点字を触覚ではなく視覚的な映像として受け取って、言葉の理解をしていることが分かります。

 また手話や読唇など、視覚を介して言葉を理解している場合は、視覚野ではなく聴覚野を働かせて理解していることが分かっています。たとえ眼から入った情報でも、あたかも耳から入ったように処理しているのです。まさに脳は目で言葉を聞いていたのです。

2020.08.26 Wednesday

脳の不思議・・お釈迦様の脳まで(その二)

脳の不思議・・お釈迦様の脳まで(二)

本庄 巌 

 

 人工内耳の医療に携わるうちに、生まれつき聾であった成人では、この手術の効果がないこともわかって来ました。音は分かるけれど言葉が理解できないのです。これは脳の可塑性によるもので、可塑性とは粘土のように柔らかくてどんな形にもできる性質を言いますが、この可塑性には年齢制限があり、3、4歳までに手術を受けると普通の子供と同じように言葉が分かるようになりますが、思春期を過ぎると言葉の理解が難しくなります。このような脳の可塑性の年齢制限は目の場合にもあって、生まれつき目の見えない人が成人になって手術で目が見えるようになっても、物の形や意味をつかめず、混乱が起こることが知られています。まさに鉄は熱いうちに打てという言葉の通りです。

 子供の脳の発達をみますと、生まれたばかりの赤ちゃんの脳でも脳細胞の数は大人の脳と変わりません。しかし脳の重さは生後6カ月で2倍になり、7〜8歳になるとほぼ大人の脳の重さに近づきます。この脳の急激な重さの増加は脳細胞をつなぐ神経線維(シナプス)が増えることによるのです。

 お母さんの顔と声とを結ぶ神経線維はより強くなってゆきます。また火を見たときには熱いという温度の感覚と結び付き、ケーキを見たときには甘いという味覚と結びつくように、神経線維の結びつきが学習や経験で増えてゆくのです.赤ちゃんは分別の世界に入ってゆき、いわば絶対界から相対の世界に入ってゆくのです。

2020.08.22 Saturday

脳の不思議・・お釈迦様の脳まで(その一)

脳の不思議・・お釈迦様の脳まで(その一)           

本庄 巌 

 

 耳鼻科医である私がこのようなテーマでお話しできるのは、耳が聞こえない人に聴力を与える人工内耳という新しい医療に携わり、その縁で脳の研究に関わったことによるのです。

 人工内耳という医療は、手術で内耳に入れた細い電極を介して、電気信号に変えた言葉を脳に送り、聞こえを回復する方法です。生まれつき音が聞こえない子供でもこの手術で普通学級に進学でき、大学にも行けるようになる画期的な医療です。また中途で失聴した人や老人の難聴にも有効です。

 しかし言葉の情報を脳に送り込む人工内耳の電極は20個しかなく、一方内耳の感覚細胞は3000個以上あるので、単純に計算すると脳に入る言葉の情報は通常の耳の1%にも満たない量です。それでもほとんどの言葉が理解できるのは、言葉を聞いているのは耳ではなく脳であるからです。

 そこでこの時の脳の働きを脳機能画像法PETで調べました。その結果、我々とほぼ同じく側頭葉の聴覚野を活動させて言葉を理解していることが分かりましたが、人工内耳装用者の脳機能から、健聴者の脳機能を引き算して人工内耳装用者に特有の脳活動の部分を浮き上がらせてみますと、普段私たちが使わない幾つかの言葉に関わる脳の場所も使って言葉の理解に努めていることが分かりました。私たちの脳が、状況に応じて巧妙に働き方を変化させていることが明らかになったのです。